「履歴書」「職務経歴書」を書くときは、少しでも自分をよく見せたくなるものだが… 転職活動につきものの履歴書と職務経歴書。これらを書くとき、誇張したり、隠したりしたくなる経歴もあるだろう。実際、“盛って”書いた場合、どのあたりが違法になったり、解雇事由にあたったりするのだろうか。
●ケース1)英語の能力が必要ない会社で、TOEICの点数を水増ししたら…?
「裁判例上、労働者は、企業から履歴書等の提出を求められた場合、真実を告げる義務があるとされています。そのため、履歴書等においてTOEICの点数を水増しする行為は、自己の英語能力について虚偽の事実を記載している点で、この義務に違反する≒違法と判断される可能性が高くなります」
ただ、違法であるとしても、直ちに解雇事由に該当するわけではなく、一般的に「採否の決定に重大な影響を及ぼす事項」について偽った場合が問題になるという。具体的には、その企業・職種の種類・性格に照らして、その事実が事前に発覚していればその応募者を採用しなかったと考えられる場合にはじめて、解雇が法的に有効となる。
●ケース2)短期間で辞めた会社のことを「職務経歴書」に記載しなかったら…?
「違法と判断される可能性がゼロとはいえませんが、虚偽の事実を申告したとまでいえるか微妙なところですし、ごく短期間の勤務にすぎないということであれば、違法とまでは判断されない可能性も十分あります」
仮に違法と判断されたとしても、ケース1と同じく直ちに解雇が認められるわけではない。ただ、辞めた会社の数や理由、辞めた会社の性質(例えば、風俗店等)によっては、転職先の会社の業務内容に照らし、採否の決定に重大な影響を与えることもありうるため、履歴書等に記載せず、面接等で質問されても告げなかったような場合には、解雇が認められる可能性があるそう。
●ケース3)「アルバイト」や「派遣社員」、「契約社員」だったことを履歴書に書かなかったら…?
「アルバイト等であったことを記載しなかったとしても、正社員だったと書いているわけではないので、自発的に虚偽の事実を申告しているわけではなく、違法とまでは判断されない可能性も十分あります。ただ、履歴書には、正社員、アルバイト等の別まで記載することを求められることが多いので、虚偽の職歴を告げたものと判断される可能性があり、このような場合には、違法とされる可能性もあります」
こちらも、仮に違法と判断されたとしても直ちに解雇が認められるわけではない。転職先企業の採用において、正社員としての職務経験が重視されて採用されたような場合には、解雇が認められる可能性もあるという。
●ケース4)後輩がいたくらいなのに「マネジメント経験あり」と伝えたら…?
「『マネジメント経験あり』といっても、そこでのマネジメントの意味・内容は、人それぞれ異なるところです。そのため、仮に転職先企業が想定していたマネジメント経験がなかったとしても、虚偽の事実を申告したとまでは評価されにくく、違法と判断される可能性は低いものと思われます」
ただ、転職先の企業・職種の種類・性格に照らして、具体的に申告されたようなマネジメント経験がなければ、採用しなかったと考えられる場合には、解雇が認められる可能性があるという。
●ケース5)重要な役割を担っていないのに○○賞受賞と書いたら…?
「前提として、履歴書等において自分一人のみで成し遂げた功績しか書いてはならないというルールは、社会的に必ずしも確立されていないと思われます。また、そもそも、重要な役割かどうかは、評価をともなう問題であり、人それぞれ判断が異なる可能性があるもの。そのため、何人かのチームで○○賞を受賞したにすぎない場合に、○○賞を受賞したと申告したとしても、そのチームに自分が含まれていたのであれば、必ずしも虚偽の事実を申告したとの評価はなされないように思われます」
自分のみが受賞したと“積極的に”申告しないかぎりは、そもそも虚偽申告と評価されにくく、違法と判断される可能性は低い。ただ、こちらもチームで受賞していたにすぎないという事実が事前に発覚していれば採用しなかった、と考えられる場合は解雇が認められる可能性もある。
これらの詐称で解雇に至ったケースもあり、特にケース1や4に類似した事例は過去に裁判例があるという。
とはいえ、いったん入ってしまえば、多少のことならバレなかったり、目をつぶってもらえたりすることも多そう。
新天地で楽しくやりがいのある仕事をすることを目的に転職する人が多いはず。履歴書を”盛る”経歴詐称は、やはりやらないほうがよさそうだ。